海外移住したらiDeCo(確定拠出年金)はどうなる?解約や受け取りについても解説
海外赴任や海外移住が決まり、これまで運用していたiDeCo(確定拠出年金)はどうなるの?とお困りの人もいるかもしれません。せっかく運用していたiDeCo、解約するのはすごくもったいないですよね。本記事では、海外移住が決まった方がiDeCoを継続できるかどうかをはじめ、解約方法、すでに海外在住の方が新規でiDeCoに加入する方法や受給開始方法などを詳しく解説します。さらに、海外移住後のお金の管理や海外送金に便利なWise(ワイズ)もご紹介します。
本記事の目次:
- iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?
- iDecoは海外赴任や海外移住をしても継続できる?
- 企業型DCは継続できる?
- 海外移住の際に、iDeCoを解約できる?
- 海外在住中にiDeCoを行う上で注意すべきこと
- 海外移住・赴任者が新規でiDeCoを始めるには?
- 日本に帰国した場合のiDeCoの手続き
- 受給手続きの方法と必要書類
- 海外在住中にiDeCoを継続するメリット・デメリット
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?
「iDeCoって聞いたことがあるけど、よく分からない」という方に向けて、iDeCoとは何かを整理していきましょう。
iDeCo(イデコ)とは、日本の公的年金である国民年金や厚生年金とは別に、個人が任意で加入して運用をし、給付を受けられる年金制度です。実施主体は国民年金基金連合会です。自分が拠出(払い込むこと)した掛金や金融商品を自分で運用した後、原則60歳以降に受け取ることができます。
公的年金以外に老後の資産形成を目的として運用するだけでなく、iDeCoの運用益は非課税となるだけでなく、掛け金金額の全額が所得控除となるという税制面でのメリットもあります。
なお、確定拠出年金には「個人型(iDeCo)」と「企業型(企業型DC)」の2種類があります。企業型DCは企業が毎月掛金の積み立てを行い、従業員である加入者が運用する仕組みです。iDeCoは個人が掛金を拠出するのに対して、企業型DCは企業が掛金を拠出する点が大きな違いです。ただし、掛金は企業負担であっても、運用結果はあくまでも加入者の責任だということを理解しておきましょう。
iDecoは海外赴任や海外移住をしても継続できる?
ここからは、本題である海外移住後にもiDecoが継続できるかについて見ていきましょう。
結論としては、海外在住者でも条件に当てはまれば国民年金の任意加入被保険者となり、国民年金保険料を納付しながら、iDeco掛金の拠出を継続することができます。2022年5月の法改正により、長期化する高齢化社会の充実を目的としてiDeCoに加入できる年齢の要件などが拡大されました。
日本国内の企業に在籍したまま海外赴任する場合(厚生年金・共済年金の被保険者資格を維持したまま)は、iDeCoの加入資格は継続でき、掛金の継続手続きは必要ありません。
また、同年4月には公的年金同様、確定拠出年金(iDeCo・企業型年金)の老齢給付金の受給開始時期の上限が70歳から75歳に引き上げられました。これにより、iDeCoの老齢給付金の受給開始時期は60歳~75歳の間で自由に選択することができるようになりました。
iDeCoの加入条件
まず、iDeCoの加入資格を見ていきましょう。
加入区分 | 加入対象者 | 加入非対象者 |
---|---|---|
国民年金第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の自営業者とその家族、フリーランス、学生など |
|
国民年金第2号被保険者 | 厚生年金の被保険者(会社員・公務員* | 勤め先の企業で、企業型確定拠出年金に加入している人(ただし、企業型確定拠出年金規約で個人型同時加入を認めている場合は加入可能) |
国民年金第3号被保険者 | 厚生年金の被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者 | - |
国民年金の任意加入被保険者 | 国民年金の任意加入者
| - |
iDeCo公式サイト 2022年・2024年の制度改正の概要(参照2025-05-09)* ただし、65歳以上の厚生年金被保険者で加入期間が120カ月以上の場合は非対象
表の通り、海外赴任または海外移住した場合、以下の条件に該当すればiDeCoに加入することができます。
海外赴任者:国内法人に勤務しながら海外赴任する(厚生年金被保険者のまま赴任)
海外赴任者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者:国民年金第3号被保険者のまま海外転出
海外移住者:国民年金に任意加入する(上記の表の年齢条件や納付済期間の条件に該当する必要あり)
企業型DCは継続できる?
日本の勤務先で企業型DCに加入していたという方も多いかもしれません。日本の企業に雇用されたまま海外赴任が決まった場合、原則としては企業型DCを継続することができます。
企業型DCを継続するには、海外赴任中も日本法人に雇用されている状態であること(厚生年金被保険者であること)が条件です。厚生年金の被保険者でなくなった場合には、資格喪失となり、加入者資格や運用指図者資格を失い、企業型DCを継続することができません。
ただし、アメリカやドイツ、イギリス、フランスなどの社会保障協定締結国とは、海外勤務が5年を超えると日本の社会保険制度から外れて厚生年金の被保険者ではなくなり、その国の社会保険制度に加入しなければいけません。その場合は、企業型DCの資産をiDeCoに移換する手続きが必要になります。
海外移住の際に、iDeCoを解約できる?
結論としては、iDeCoは原則として老齢世代にあたる60歳になるまで解約(中途解約・払い戻し)できません。
「自分のお金なのに、なぜ解約できないの?」と思われるかもしれませんが、iDeCoは一般の貯蓄とは異なり、確定拠出年金法に基づく年金制度です。老後の資産形成を目的として各種税制優遇措置が講じられています。法令上の制約により、原則として受給開始の60歳に達するまでは資産を引き出すことができません。
払い込みの一時中断は可能
海外移住者の場合は、居住国の年金に加入するなどのケースで日本の国民年金の継続をしない人も多いかもしれません。掛金の拠出を希望しない場合は、掛金の払込を一時的に停止し、「運営指図者」として積立金の運用を継続する必要があります。
「運営指図者」とは、海外移住や失業などを理由にiDeCoの継続が困難になった場合に拠出を一時中断しながらも、これまで積み立ててきた保有する資産だけの運用をする人を指します。
運営指図者として運用継続を希望する場合や、日本帰国後に拠出を再開したい場合は、所定の手続きが必要です。
海外在住中にiDeCoを行う上で注意すべきこと
冒頭でお伝えした通り、法改正により海外在住者でも条件を満たせばiDeCoに加入できるようになりました。しかし、海外在住者がiDeCoに加入・運用していく場合には次の3点に注意した方が良いでしょう。
税制優遇が受けられない
iDeCoの掛金は全額所得控除となり、日本の居住者にとっては大きな節税効果があることが大きなメリットです。しかしながら日本非居住者の場合は、居住国に税金を納付することが原則です。そのため、日本の所得控除の恩恵を受けることができないのはデメリットと言えるでしょう。
海外送金手数料や為替リスクがある
iDeCoに加入する場合、毎月の掛金は口座振替で引き落としされることが一般的です。そのため、海外在住者の場合は掛金を日本円で用意する必要があり、海外から日本の自分の口座へ送金する手数料や、市場状況によっては為替で損をしてしまう為替リスクも考慮する必要があります。
日本での課税
海外在住者が受給年齢に達し、海外で老齢給付金や一時金を受け取る場合でも、20.42%の所得税(復興特別所得税を含む)が源泉徴収されます。
日本在住であれば、年金として受給する場合は公的年金等控除が、一時金として受給する場合は退職所得控除の対象となりますが、非居住者はこれらの控除の恩恵を受けることができません。
税金の取り扱いについての注意点については記事の後半で別途解説しますので、併せてお読みください。
代理人登録が必要な場合がある
海外在住者の場合、運用商品によっては日本に住む代理人住所の登録が求められるケースがあります。この場合、手続き書類は代理人宛に送付されるため、契約前に代理人連絡先として依頼できる人がいるかどうかを確認しておく必要があります。
海外移住・赴任者が新規でiDeCoを始めるには?
ここでは、海外在住者や移住予定の方でも加入できるiDeCo商品として、楽天証券とSBI証券の手続き方法をご紹介します。
楽天証券
海外居住者が加入する場合には、書類等の送付先として日本の代理人住所の登録が必須となります。手続き前に、誰を代理人として立てるかを確認しておきましょう。
加入資格:国民年金被保険者
任意加入被保険者の場合:
20歳以上65歳未満の外国に居住する日本国籍を持つ国民年金被保険者
60歳以上65歳未満で老齢基礎年金が満額に達しておらず、任意国民年金加入者
ただし、国民年金の保険料納付免除(一部免除含む)、納付猶予を受けている人(障害基礎年金の受給者を除く)、農業者年金加入者を除く
新規加入手続き方法:国民年金の任意加入者の場合は、郵送での申し込みとなります。加入に関する問い合わせの電話番号に連絡の上、日本の代理人住所に手続き書類を郵送してもらいましょう。
楽天証券 個人型確定拠出年金(iDeCo)
固定電話から:0120-545-401(通話料無料)
携帯電話から:0570-000-401(通話料有料)
受付時間
【平日】 8:30~17:00
【土日】 9:00~17:00 (祝日・年末年始を除く)
SBI証券
すでに海外居住者がSBI証券のiDeCoに新規加入する場合、海外への書類送付は行われていません。ウェブサイトから自分で必要書類をダウンロードし、記入した上で、日本国内の送付先まで郵送が必要です。
また、国民年金の任意加入者であることの証明として、「国民年金任意加入被保険者資格取得申出受理通知書」(コピー可)の添付および、引落機関口座が非居住者向け口座の場合はあらかじめ口座振替ができるかどうかを金融機関に確認しておきましょう。
申し込み書類が無事に受付された後は、メールアドレスに口座開設の連絡が入ります。
日本に帰国した場合のiDeCoの手続き
海外赴任や海外移住が決まった際でも、60歳になるまではiDeCoを解約することができません。本記事でも先にご説明したように、海外在住中は払い込みの一時中断をし、日本帰国後に拠出を再開するという手続きになります。
日本本帰国後の定住先が確定次第、iDeCo契約先に住所変更の届け出をしましょう。
再び掛金を拠出したい場合
先にご説明したように、留学や海外赴任などで一時的に掛金の拠出を停止した場合、出国前に「運用指図者」として資産の運用のみを継続する手続きを行います。
日本本帰国後に掛金の拠出を再開したい場合は、再度「加入者」になるための手続きが必要です。
また、帰国に伴って、国民年金被保険者種別や勤務先の加入する企業年金制度に変更がある場合は、契約先の金融機関へ変更届が必要です。詳細は、契約先の金融機関にお問い合わせください。
海外在住中に受給開始年齢(原則60歳)になった場合
法改正により、iDeCoは海外移住後も条件を満たせば継続的に掛金を拠出できるようになりました。将来海外へ移住予定の方や、すでに海外に居住している方は、海外でもiDeCoを受け取れるか気になるという方も多いのではないでしょうか?ここでは、海外での受給手続きについて解説します。
海外からでも受給手続きは可能か?
確定拠出型年金の運営管理機関である日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社によると、海外在住でも受給できる要件を満たしていれば給付金の受け取りは可能です。ただし、提出書類が国内在住者と異なる可能性があるため、給付金請求時には海外在住である旨を申し出るようにしましょう。
受給の方法には、以下の3種類があります。
年金として受け取る
一時金として一括で受け取る
一時金と年金を組み合わせて受け取る
原則、iDeCoは老齢給付金として原則60歳に達した際に受け取ることができます。ただし、受給には通算加入者等期間が10年以上必要です。期間が満たない場合は支給開始年齢が引き延ばしとなります。
受給手続きの方法と必要書類
老齢給付金や障害給付金を受け取る際には、運営管理機関(RK:レコードキーパー)に希望の受け取り方法(5年以上20年以下の期間の年金または一時金)を示した給付請求を行います。運営管理機関の連絡先は、定期的に郵送されてくる「年金資産の残高の通知」等に記載されているので控えておきましょう。
受け取り方法によって必要書類は異なる場合があるので、詳細は運営管理機関に確認して、裁定請求手続きに必要な書類を取り寄せてください。必要書類の送付後、裁定結果の通知を受け取り、資産の現金化を経て、給付金の受け取りとなります。
海外居住者が受給手続きをする場合、海外の郵送事情や書類の取り寄せに時間がかかることが予想されるため、早めに問い合わせて準備を進めることが望ましいでしょう。
税金の取り扱いについての注意点
iDeCoには一定の税制優遇があることが大きな魅力ですが、給付金の受け取り時には他の所得と合算されることで所得税や住民税の課税対象となる場合があることに注意が必要です。
給付金は、年金もしくは一時金のいずれかの受け取り方法を選択することができますが、以下の通り、老齢給付金や死亡一時金、脱退一時金の受け取り時には課税されます。
タイミング | 課税対象 | |
---|---|---|
拠出時 | 非課税 | |
運用時 | 非課税 | |
給付時 | 老齢給付金(年金) | 公的年金と同じく雑所得となり、所得税・住民税の対象 (公的年金等控除が受けられる) |
給付時 | 老齢給付金(一時金) | 退職所得となり、所得税・住民税の対象 (退職所得控除が受けられる) |
給付時 | 障害給付金 | 非課税 |
給付時 | 死亡一時金 | みなし相続財産となり、相続税の対象 |
給付時 | 脱退一時金 | 一時所得となり、所得税・住民税の対象(50万円以下であれば非課税) |
出典:JIS&T 加入までの流れ より引用
日本の非居住者として海外で受給する際も、源泉徴収されます。
老齢一時金の受給時:国内源泉所得相当分に対して20.42%の所得税(含む復興特別所得税)が源泉徴収されます。
老齢給付金の受給時:国内源泉所得に限らず支払金額全額が所得税の対象となり、源泉徴収されますが、居住国と日本との間において租税条約が締結されており、かつ、退職年金条項がある場合には、「租税条約に関する届出書」等を提出することで日本における課税が免除されます。
税金の取り扱いについては非常に複雑であるため、税務署や税理士に相談することをおすすめします。
海外在住中にiDeCoを継続するメリット・デメリット
iDeCoは日本国内の居住者向けに作られた個人年金制度のため、正直なところ海外在住者にとってメリットは多くありません。海外居住者がiDeCoを継続するメリットやデメリットを整理してみました。
メリット | デメリット |
---|---|
✅国民年金・iDeCoの両方で将来の老後資金を積み立てできる ✅日本円建てで老後資金の積み立てができる ✅受給が日本帰国後の場合、退職所得控除や公的年金控除が受けられる | ❌税制優遇の恩恵が受けられない ❌原則、60歳までは解約不可 ❌海外居住中に受給すると、日本で源泉徴収されてしまう ❌掛金の送金手数料や為替リスクがある ❌口座振替が可能な日本の預金口座が必要 ❌給付の都度、事務委託先金融機関に対する手数料が発生 |
iDeCoの最大のメリットは、税制優遇です。
掛金が全額所得控除の対象で、運用益は全額非課税となるなど、日本在住者にとっては税制面で大きな優遇がありますが、残念ながら海外在住者はこのような恩恵を受けることができません。また、iDeCoは原則60歳までは解約できないため、拠出を継続するか、一時休止するかを決める必要があります。海外で受給する場合、税金が源泉徴収されてしまう点にも注意が必要です。
世界情勢が不安定な現代、居住国の通貨以外にも日本円建てで老後資金の積み立てができる点は、リスク分散にもなり、大きなメリットと言えるでしょう。海外赴任や留学などで、いずれ日本に帰国予定がある場合は、受給時に所得控除や公的年金控除を受けることもできます。
海外移住・海外赴任のお金の管理にはWise!
日本を離れて、海外で生活する方にとって悩ましいお金の管理。
iDeCoの掛金の拠出にも日本の銀行口座が必要で、海外居住の場合は海外から日本の口座へ海外送金することが多くなるでしょう。
そんな海外でのお金の管理におすすめしたいのが、Wise(ワイズ)です。
Wiseは140カ国・40種類の海外送金に対応しており、為替手数料が一切かからないミッドマーケットレートでの両替が可能です。送金手数料も0.68%~と銀行よりも安く、スピーディーな送金が可能です。
海外移住や赴任したばかりの頃には、銀行口座開設にも一苦労するかもしれません。
そんなときには、Wiseのマルチカレンシー口座が便利です。主要9の現地口座情報を無料で取得でき、まるで国内送金のように現地通貨で資金を受け取ることができます。さらに、アカウントに紐づくWiseデビットカードを発行すれば、現地でのショッピングはもちろん、ATMで現地通貨を引き出すことでき、海外生活を始めるにあたって力強いサポートになるでしょう。
まとめ:海外移住・赴任とiDeCoのポイント整理
海外居住者はiDeCoの最大のメリットである税制優遇の恩恵を受けることができませんが、日本円建てで老後資金の積み立てができ、居住国の通貨以外で資産を形成することができます。海外居住者の場合でも資金の拠出は、一般的に日本の銀行口座からの引き落としとなり、海外と日本の口座間での送金が必要になることもあるでしょう。そのような場合は、安くて、スピーディーな送金で知られるWiseが便利です。
今後、iDeCoを始めようか迷っている方は、本記事で解説したメリット・デメリットを踏まえ、将来どの国でどのように働き、海外生活がどのくらい長くなりそうか、老後はどこで過ごすのかをなどを考慮して総合的に判断することが重要と言えるでしょう。
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※本記事の内容は、一般的な情報提供を目的としており、税務上のアドバイスを提供するものではありません。具体的な税務手続きや納税義務については、最新の法令や個別の状況に基づき、税理士または専門の税務アドバイザーにご相談ください。また、本記事の情報は記事作成時点でのものであり、その正確性や完全性を保証するものではありません。最新の情報については、日本国税庁の公式サイトをご確認ください。
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